Title | 朱雀(右) | ||
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江西大墓の墓室の南壁入口の右側の壁に描かれた雄の朱雀の壁画である。文献記録によると、朱雀とは鳳凰に由来する神鳥で、図柄やその象徴的意味から鳳凰と等しく取り扱われる場合もある。
鳳凰に関しては、竜と同じくその姿についての記録が非常に多様である。『山海経(東夷族の神話や伝説を集大成した一種の巫俗書)』には「その状はにわとりの如く、五彩で文(あや)あり、名は鳳凰」との記録があり、『説文解字』には「鳳凰は神鳥で五色を帯び、体は前半分が麒麟(実際に存在する首の長い動物ではなく、頭に角が1本ある想像上の動物で、縁起のよさを象徴している)で後ろ半分が鹿。また蛇の首、魚の尾、竜の鱗、亀の甲、そして燕のあごに鶏のくちばしを持っている」という記録も見られる。したがって鳳凰は、鶏に似た姿や複数の動物の各部分を合成した姿をしていて、青竜の場合と同じように瑞獣としての性格が強調されている。
画面に見えている朱雀は、入口の左側に描かれた朱雀と基本的にはよく似た姿となっている。これもやはり文献の記録のように鶏の姿と似ており、胴体が五色で飾られた神秘的で美しい姿を見せている。特に首から胸元へと下りてくるラインは、まるで蛇のようにS字形の曲線をなしていて、胸元の中央から腹部の下まで横線が引かれた部分は青竜の胴体とよく似ている。顔は鶏より華やかで、頭には火焔形(火炎文様)の赤い鶏冠があり、くちばしには赤い蓮のつぼみのついた蓮の枝を1本くわえている。この蓮の枝は、朱雀の上半身と同じくS字形の曲線を帯びて流麗に描かれている。このように2つのS字曲線がつながることで、一番上の蓮のつぼみから朱雀のくちばしを経て胴体に至るまで、華麗ながらも優雅な双曲線を形成している。
しかし、その華やかさや優雅さは、左側の雌と比べるとかなり見劣りがする。黒色の大きなくちばしと4つにわかれた赤い肉髯が雄としての力強さと猛々しさを象徴している。勢いよく広げた翼や尾羽の姿が雌と比べてとても簡潔ながらも力強い躍動的な姿を見せており、全般的な色合いも暗い感じで、より重みが感じられるところが雄としての雄壮な姿を誇っているようである。朱雀の下の部分には、やはり白、赤、黒で描かれた山岳の幾多の峰が上下に遠近感を効かせて配置されている。